Partager

第25話 智也の嫉妬心

Auteur: 月歌
last update Date de publication: 2025-12-10 19:35:21

アーサーに言われたとおり、馬車の中では彼にもたれ掛かっていた。

でも、峠を下りきった頃には、アザンガルドの街並みに目を奪われて、智也は馬車の小さな窓に顔をくっつけるようにして眺めていた。

アザンガルドの街は活気に満ち溢れていた。数日後にカインの婚儀を控え、街全体が祝福ムードに包まれている。

「活気がある町だね」

智也がそう言うと、アーサーが車窓の街並みを見ながら口を開いた。

「アザンガルドは首都だからな。比較的裕福な住人が住んでいる。でも、この街の住民にとっても久しぶりの明るい話題でいつも以上に活気があるみたいだな。王が病に伏してからは、街も活気を失っていたから」

「そうなんだ。アーサーのお父様は、この街の人に好かれていたんだね」

「そうなるかな……もう、随分会っていないな、父上には」

アーサーが遠くを見る目でそう言ったきり、黙りこんでしまった。

馬車が王宮に近づくにつれて、アーサーは寡黙になっていく。

——彼の幼き日の記憶が、アーサーを黙らせてしまうのかもしれない。

十二歳で魔法使いの少女と契約を交わし、その少女をカインに殺されたことが原因で、この王宮を出て森の奥深くの白亜の城に移
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 異世界転移、魔法使いは女体化した僕を溺愛する   第76話 生きる意味

    「生きる意味とは……なんだろう?」蓮は呟いた。その問いに、誰かの声が応じた。聞き覚えのある、だが懐かしい声。牢獄塔に閉じこもってから初めて聞こえた、他人の声だった。「聞こえているか……レン。お前は俺の契約魔法使いだ。俺が生きている限り、契約によりお前は俺のものだ。俺の命令を聞くんだ、レン。トモヤを守れ。あいつを幸せにしてくれ。」声は続いた。「カインにトモヤを奪われた時……俺は、母や妹を守る為にトモヤから身をひくしかなかった。『トモ』が殺された時もそうだ。俺は何時もしがらみに縛られて自分が思うようには行動できない。だが、お前は違うだろ、レン!!」「アーサー?」「聞こえたか!! ずっと話しかけていたんだぞ。そんなことはどうでもいい。」アーサーの声が少し強くなった。「トモヤがカインの子供を妊娠したことを弟から聞かされた。そして、トモヤが獣族に誘拐された事も。事件は収束に向かっているようだが、カインはお前にトモヤを無事に獣族の村から連れ帰って欲しいと願っている。カインは、お前が正気に戻ることを願っている。俺もそうだ。聞こえているか、レン!」「智也が誘拐された!?」蓮は驚きの顔で、閉じ込められた牢の柵にしがみつき、アーサーに声をかけた。アーサーは、蓮が呼びかけに反応したことにほっとしたように頷いた。「牢獄塔に狼属の獣族の長が投獄されてたんだ。その長を取り戻す為に自ら囚人としてこの塔にやってきたアベルという奴が、牢獄塔の前にカインの側室のトモヤがいるのに気が付いて彼女を誘拐して直接王宮と交渉することに方針転換したらしい。」蓮は顔を歪め、その額を柵にきつく押し当てて語気を強めた。「くそ、俺のせいだ!! 智也を牢獄塔の前で一人にしてしまったから。魔法の防壁も途中で途切れてしまったんだな。アーサー、早くここから出してくれ。あいつを迎えにいく!!」アーサーはじっと蓮の顔を見つめながら口を開いた。「レン……お前は、正気に戻ったのか?」「正気?」蓮はアーサーの顔をじっと見つめた後、ゆっくりと笑みを浮かべて答えた。「ああ、正気だよ?」「…………そうか。ならいい。」アーサーはそれだけ言うと、牢獄の鍵で柵の扉を開き、蓮を牢から解放した。蓮は、手に持っていた異世界から取ってきたノートをマントの中に隠すと、アーサーに向かって聞いた。「アーサー、お前も俺と一

  • 異世界転移、魔法使いは女体化した僕を溺愛する   第75話 蓮の脳内

    (牢獄塔最上部)蓮の脳に流れ込んできたギルミットの魔法の知識が、洪水のように脳内で氾濫し、収拾がつかない状態になっていた。ぼんやりと薄暗い牢獄塔の壁を見ている蓮の目には、脳内で氾濫する無数の魔法陣が、意味もなく石の壁に書き込まれていく錯覚に陥っていた。何か大切なことを忘れている——蓮自身もそれは分かっていた。 だが、そのことを考えようとすると、脳が拒絶反応を示すように魔法の数式が再び洪水のように氾濫し、意識を混沌とさせた。蓮は牢獄塔の冷たい石の壁に背中を預け、ゆっくりと目を閉じた。『蓮』誰かの声が聞こえる。『蓮』その声は、男であったり女であったりした。それでも蓮には、同一人物が発する声のように思えて仕方なかった。「誰だ……? 誰が、俺の名前を呼ぶ?」蓮は思わず呟いた。 混沌とした意識は、『蓮』という名前が自分のことであるのかどうかさえ曖昧にしていた。自分が『トモ』という名前だったような気もする。だが、蓮を『トモ』と呼んだものが誰だったか、はっきりとは思い出せなかった。それを思い出すことは、自分自身の精神の崩壊を意味するような気がして、恐ろしかった。不意に、両手に生暖かい感触が蘇る。蓮は冷や汗を流しながら目を見開いた。おそるおそる両手を見ると、その手には赤いペンキのようなものがこびりついていた。全身に視線を走らせると、服やマントにまで乾いた赤いものがこびりついている。その赤いものが、不快な臭いを発していた。咥内にも同じいやな臭いがしていることに気づく。 己が何か不快なものを口にしたことは明らかだった。 だがそれは、必要なことだった。その行為を己自身で受け入れたことを、蓮は身に染みて分かっていた。脳はそれを理解しながら、精神が乖離したようにその行為を受け入れようとしない——蓮はそう感じていた。『蓮……』また声が聞こえた。今度は、男とも女ともわからないような声色だっ

  • 異世界転移、魔法使いは女体化した僕を溺愛する   第74話 カインの困惑

    カインの言葉にユリアスは薄い笑みを浮かべ、口を開いた。「もう手は考えてあります。トモヤ様が懐妊されていた事は幸いでした。」ユリアスは一度言葉を切った。「王家の正統なるお世継ぎ懐妊の恩赦として、獣属の長を放免といたしましょう。本人も無実だと訴えているように実際投獄されている長は、庶民を蔑んだ言葉を放った貴族に反論しただけで捕まったようです。ま、ありがちな話ですが。彼を、牢獄塔から出しても王国に害をなすとは思えません。」カインはほっとした表情になって、ユリアスに命じた。「恩赦で放免とするなら、書類がいるだろう。お前のことだ、もう用意してあるのではないのか?」「こちらに書類を用意してあります。カイン様のサインをいただければすぐに、囚人は牢獄塔から放免できます。」ユリアスは続けた。「それと、狼属の獣族長だけを釈放しては何かと目立ちますので、釈放しても問題なさそうな囚人を数人牢獄塔から同時に釈放しましょう。その中に、今回の騒動の主のアベルの名前も記しておきました。この書類に署名をお願いします。」カインはユリアスが王家への忠誠からではなく、己自身の野心の為にその頭脳を使っていることに少々嫌気が差していた。それを少し顔に表しつつ、ユリアスから書類を受け取り、一通り読んだ後に署名し、王家の印を押した。それをユリアスに渡しながら、気になっていたことを口にした。「王家が一部族の要求に従い、牢獄塔の囚人を解放したことが世間に知れてはまずいだろうな。そのあたりも、お前は手配済みなのか?」「はい。側室のトモヤ様が誘拐されたことは極秘となっております。生き残って帰ってきた護送車の運転手も大量失血の為亡くなりました。」ユリアスは淡々と続けた。「側室の誘拐を知るものは、あとは王家へ忠誠を誓っているものだけです。長が治める狼属の一族には、秘密を守らなければ全面的に攻撃すると警告しましたので秘密は守られるはずです。」(おそらくユリアスは護送車の生き残りの運転手を、口封じの為に殺したのだろう)カインはそう思ったが、黙っ

  • 異世界転移、魔法使いは女体化した僕を溺愛する   第73話 カインの焦り

    「もう一度、正確に報告してくれ。ユリアス!!」早朝に側室の智也が囚人に誘拐されたと報告を受けたカインは、執務室の机で報告書を読みながら、怒りで語気を強めて側近のユリアスに命じた。ユリアスは姿勢を正して、もう一度口を開いた。「深夜のことです。昨晩、王宮に腕をきられた男が現れ、門番に自分は囚人を牢獄塔に運ぶ仕事をしているものだと伝え、そのまま気絶してしまいました。」ユリアスは一度言葉を切った。「治療院に運び、医者のギーナが治療にあたりましたが、その男が目を覚ましたのがつい先ほどです。その男が、囚人が牢獄塔の前で護送車から逃げ出し、側室のトモヤ様を誘拐したそうです。」さらに続けた。「同じくその場で腕を斬られた同僚は、王宮に向かう途中で命を落としたそうです。」「護送に失敗した男が死のうと、俺には興味は無い。」カインは苛立ちを抑えきれず、机を指でこつこつと叩いた。「それより、トモヤはどうして誘拐されたのだ。その囚人の名前は分かっているのか? その者の目的はなんだ? それと、レンはその場に居なかったのか? あいつがトモヤの傍にいればむざむざ誘拐などされなかったはずだ。」ユリアスはカインの様子を見ながら答えた。「囚人の名前はアベルで狼属の獣族だと自身で名乗っておりました。」「狼属の獣族だと? 辺境に住む彼らとは、和平を保っているはずだ。獣族だからという理由で捕まえることは無いはずだ。その男は何故捕まった?」「貴族の馬車を襲い、兵に捕まり牢獄塔送りとなりました。もっとも、護送車の柵を容易に切り裂くような者ですから、兵にわざと捕まったものと思います。」「わざと兵に捕まって牢獄塔送りにされたと言うのか?」ユリアスはうなずいた。「狼属の獣族の多くは王家と和平を保っています……というより、服従ですね。」少し間を置いてから、ユリアスは続けた。「それを嫌って離れていく一族も幾つかあります。アベルもその一族の一つでしょう。実は、アベルが

  • 異世界転移、魔法使いは女体化した僕を溺愛する   第72話 誘拐

    囚人の男の獣の爪が鋭利な凶器となって、護送車の柵をバラバラにした。同時に智也を拘束していたロープも切れたが、髪も少し切れてしまった。(なんて、髪の毛の心配してる場合か!!)智也はバラバラになった柵と同様に、地面に落ちていく。「ひぇええええええーーーーーーーー!!」悲鳴をあげる智也が地面に直撃する寸前で、囚人の男が護送車から飛び降りて彼を抱きとめると、獣のように跳ねて牢獄塔の入り口に移動した。智也を襲った男たちは唖然とした様子で二人を見つめていた。お姫様抱っこされた状態の智也は、改めて囚人の顔を見た。その男の端正な顔立ちに目を惹かれたが、それ以上に彼の耳が妹のモモの耳に似ていることに気づき、思わず呟いた。「猫耳男……??」「猫耳じゃない。狼の耳だ!!」男に怒鳴られ、智也はびくっと体を震わせた。すると男は僅かに笑って、智也を地面にゆっくりと下ろした。「やべえ、囚人が護送車を壊しやがった。ここで逃がしたら、懲罰だけじゃ済まされないぞ俺たち!!」「俺たちが牢獄塔に送られちまう。冗談じゃない!! この男を捕まえないと……いや殺しちまえ!!」護送車で囚人を運んできた男たちはそう叫ぶと、ナイフをそれぞれ取り出して身構えた。囚人の男は、ナイフを向ける男たちに向かって素手で走り出した。獣のような俊敏さで男たちに襲い掛かると、勝敗は一瞬のうちに付いた。男たちはナイフを持った腕ごと、囚人の獣の爪で切られた。ナイフを握ったままの腕が血を噴き出しながら地面に転がる。二人の男たちはそれぞれ片手をもぎ取られ、悲痛な悲鳴をあげた。「ひぃいぎゃああああああーーーーーー!!」「痛いっ、いてええええーーーーーーーー!!」「聞け、お前たち。ここで殺されたくなければ、早急に王宮に立ち返りカインに伝えろ。『お前の側室とその腹の子は獣族のアベルが預かった。返して欲しくば、牢獄塔に囚われた獣族の長を解放しろ』とな。さあ、行け!!」囚人の男が獣の咆哮をあげると、腕をなくした男たちは血が流れ出る腕を押さえたまま踵を返し、王宮への道を走り出した。(あの出血量で、王宮までたどり着けるか微妙なところだ……)妙な冷静さで分析していると、囚人の男が近づいてきてにやっと笑い、口を開いた。「さすがだな。アーサーを踏み台にして、カインの側室に成り上がった女だけのことはある。血を見ても冷静な顔をし

  • 異世界転移、魔法使いは女体化した僕を溺愛する   第71話 囚人

    「ひぃ、嫌っ。触らないで!!」男の一人が智也に乱暴に触れ始め、白い肌が赤く染まっていく。もう一人も同じく近寄り、智也の体を強引に扱った。「痛いっ、やめて!!」痛みに体をよじると、拘束された両手首のロープが皮膚にさらに食い込んだ。動いた拍子に側室の指輪が柵に当たり、金属音が響いた。それに気づいたもう一人の男が、智也の手に嵌まった指輪をじっと見て口を開いた。「随分上等な指輪をしているな。犯して殺した後には、俺が貰ってやるよ。」犯して殺す……?「ああ、ヤダ。なんで、私がこんな男たちに……! そうだ、蓮!! 助けてよ!! 幼馴染のピンチなんだよ。蓮っーーーーーーー!!」牢獄塔の最上部に向かって叫んだが、厚い魔法の防壁が張られたままで、蓮との連絡は遮断されていた。何とかこの状況を自分で切り抜けるしかない。磔にされた状態でできることは、口を動かすことだけだった。智也は震える声で訴えた。「この指輪はカインから貰った側室の指輪なの!! これは、私が次期王位継承者のカインの妻だっていう証拠よ。よく見なさいよ!!」「へいへい、まだ言ってるよこの女は。王宮の女がこんな場所に一人でいるわけ無いだろ、バーーカ。」「馬鹿はあんたたちの方よ!! 離せ、畜生!!」「お、口が段々悪くなってきた。やっぱ、姫様じゃないわこいつ。遠慮なくやっちまおうぜ。」男の一人が智也の体をさらに強引に扱い始め、もう一人も同様に触れてきた。嫌な感触と吐き気、強い恐怖が智也を襲った。手首のロープを軋ませながら少しでも逃れようと体をひねり続けたが、逃げられるはずもなく、絶望感が心を支配しそうになった。その時、背後から声が聞こえた。「お前本当にカインの側室なのか? この側室の指輪は本物か?」男たちにもてあそばれていて、最初はその声がどこから聞こえるのか分からなかった。やがてそれが、柵の中から聞こえる声だと気づいた。いつの間にか、護送車に投獄されていた男が智也の背後に近づいていた。その男は智也の指に嵌まった指輪をじっと見つめていた。「くっ……うぅ……誰でもいいから、見てないで助けてよぉ!! 女がピンチなのよ!!」とにかく、誰でもいいからこの男たちを何とかして欲しい。こんな目に遭いたくない。最悪の結末だけは避けたい。智也の叫びに、男たちが可笑しくてたまらないように笑い出した。「この女、囚人に

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status